賃貸退去時、原状回復の観点からの掃除&補修の基本とは!?
賃貸物件から退去する際、単に荷物をまとめて出ていけば終わり……とはいきません。借り手には原状回復という重要な義務があります。
この原状回復には、物件を清潔な状態に保つための掃除や、入居中に発生した損傷の補修が含まれます。しかし、どこまでが借り手の責任で、どのような掃除や補修を行えば費用負担が減るのかはよくわからないものです。
本記事では、賃貸退去時の掃除と補修に焦点を当て、原状回復の観点から基本的なポイントを解説します。
はじめに
原状回復義務とは?
原状回復義務とは、賃貸契約終了時、借り手が物件を元の時の状態に戻す義務のことを言います。ただし、自然な経年劣化や、借主の責任ではない損傷については、原状回復の義務から除外されることになっています。
この原状回復の範囲については、契約内容等ケースバイケースでも異なるため、退去時に確認しておくことが重要です。また、後述しますがガイドラインの参照も重要となります。
賃貸退去時の掃除と補修の重要性
賃貸物件を退去する際、不動産管理業者が行う原状回復のお世話にならないためには、掃除と補修が重要となります。これらのでき次第で、敷金の返還額にも直接影響を及ぼすことになるからです。
適切な掃除と必要に応じて補修(※補足参照)を行うことで、物件の状態を良好に保つだけでなく、より多くの敷金を取り戻すことに繋がります。
【※補足】補修に関してはセンシティブな問題です。一般の方が下手に補修を行うことにより、かえって目立ってしまったり、やり直しの費用が発生したりする可能性があります。そのため、補修に関しては完全に自己責任において行うものとご理解ください。心配な場合は、専門の業者に相談・依頼するのが確実です。
退去時のトラブルは多い!?
原状回復のための費用として、敷金から差し引かれる金額について、借り手と貸し手の間で見解が異なることは多いものです。利害が相反するので、トラブルが発生しやすいのは仕方がないことなのでしょう。
こうしたトラブルを避けるためには、退去前に物件の状態をしっかりと確認し、必要な掃除や補修を行うことが重要です。
それらを行うことで、万全な状態で退去の最終立ち会いに望むことが可能となります。
原状回復義務の範囲を理解する
作業の前には、原状回復義務の範囲をできるだけ正確に理解しておくことが重要です。
賃貸物件を使用する過程で避けられない経年劣化と、借り手の故意や過失による損傷とを区別し、何が借り手の責任に含まれるのかを把握しておく。
そうすることで、効率良く作業ができるからです。
経年劣化による汚れ・損傷→範囲外
賃貸物件における経年劣化は、自然な使用と経過時間によって生じる物理的な変化を指します。この経年劣化は、先にも記載したとおり原状回復の対象外とされることが基本です。
例えば日光による壁紙の黄ばみは、誰がどう住んでいても発生するもので、防ぎようがありません。こういった汚れ(劣化)は、貸主が負担するべきものになります。
故意・過失による汚れ・損傷→範囲内
対して、借主の故意・過失による汚れ・損傷は借主の負担になります。
借主は、善良な管理者としての注意を払いその物件を使用する義務があります。つまり、最低限のメンテナンス(掃除)は行う義務があるのです。
そのため、
- 故意=意図的
- 過失=貸主の責任
などに起因する汚れ・損傷についてを原状回復させるためには、借主が費用を負担することになります。……これは当然のことですよね。
逆に言えば、立ち会いまでにこれらの汚れ・損傷を何とかカバー・軽減することができれば、原状回復費を減らすことができる=敷金が多く戻ってくることになります。
迷った時は、国土交通省ガイドラインの活用を
国土交通省は、賃貸住宅の原状回復に関するガイドラインを提供しています。
このガイドラインでは、経年劣化と故意・過失による損傷を具体的に例示し、どのようなケースで敷金からの差し引きが適切かについての目安を示しています。
このガイドラインを参照することで、原状回復の責がどちらにあるのかの理解を深めることができるでしょう。
契約書の内容も確認
賃貸契約書に記載されている内容も、やはり重要です。退去時の原状回復に関する条項が明記されているため、退去前にもこの部分を特に注意深く読み、不明点があれば事前に確認しておくことが重要です。
特に、「特約」とされる、その契約での特別な約束事を定める部分は気をつけて読みましょう。この部分には、退去時に関することに触れていることが多いからです。
あらかじめしっかりと読み込んでおくことで、退去時のトラブルを未然に防ぐことができます。
事前に読み込んでおけば、退去の立ち会い時に「契約書に書いてない!」と自信をもって訴えることが可能です。立ち会い時に契約書を所持しておくことも一案でしょう。
お掃除の基本ポイント
賃貸物件を退去する際には、原状回復のためにお掃除が重要です。しかしながら、賃貸借契約書に「賃借人がハウスクリーニングの料金を負担する」旨の記載があれば、退去後にプロのハウスクリーニング業者が基本的な掃除を行ってくれることになっています。
ですのでその場合、一般的な掃除は必須ではないと言えます。利用者の責における、原状回復のための特別大きな汚れに集中することが重要です。
例えば……
- 真っ黒なカビ
- 落ちないかもしれないシミ
- 一度も掃除をしていないような汚れ
- その他借主に責がある悪目立ちする汚れ全般
などに重点を置いてお掃除していくのがよいでしょう。適切な掃除箇所のポイントを押さえておくことで、退去時の清掃を効率的に行うことができます。
キッチンの油汚れとカビ取り掃除
キッチンは油汚れやカビが発生しやすい場所です。通常、善良なる管理者としての注意を怠っていなければ、落ちないほどの汚れになることはそう多くはないかもしれません。
もしも頑固な油汚れが発生してしまった場合は、専用のクリーナーを使用してしっかりと落としましょう。
換気扇やコンロ・シンク周りは特に汚れが溜まりやすいため、特に念入りに掃除します。カビが発生している場合は、カビ取り剤を使って徹底的に除去することが重要です。
浴室のカビ取りと掃除
浴室もまた、湿気が多くカビが生えやすい場所です。壁や天井、ドア、カーテンなどに発生したカビは、カビ取り剤で根こそぎ落とします。
浴槽や洗面台、蛇口などの頑固な水垢も、専用のクリーナーできれいにしましょう。排水溝の掃除も忘れずに行い、詰まりがないか確認しておくことが大切です。
浴室鏡のウロコ(カルキ汚れ)も、あまりに酷いものは鏡の交換を強制されたり、特別なハウスクリーニング費用を取られることもあります。以下のページも参考に、落としてみてください。
トイレの徹底洗浄
トイレは使用頻度が高く、汚れや臭いが気になる場所です。多少の汚れは問題ありませんが、強力&頑固な尿石・輪ジミがびっしりとついていたり、カビだらけ、強い悪臭が発生しているような場合は原状回復の責を負わされるかもしれません。
トイレットブラシとクリーナーを使用して、便器内外を徹底的に洗浄します。また、便座やフタ、壁面、床も清潔に保ちましょう。
それでも取れないような汚れは、専用の薬剤を購入することになります。ドラッグストアで買えるような洗剤で落ちれば良いですが、それでも落ちない頑固な汚れは、ネットなどでプロ用の洗剤を取り寄せることも一案です。
壁紙(クロス)の汚れ
壁紙(クロス)は、ちょっとした摩擦などですぐ汚れるものです。
簡単な汚れであれば、湿らせたティッシュだけで落せることも多いかもしれません。頑固な汚れには、濡らしたメラミンなどが効果的なことがありますが、強力なため、壁紙の素材によっては傷をつけることもあります。
そのためお掃除の際は、まずは目立たないような狭い面積で試すことを基本にしてください。
壁紙を綺麗にするだけで、全体的な部屋全体の印象を明るく清潔に見せる効果があるでしょう。
タバコなどで壁紙が黄ばんでしまった場合、全面を落とすのは現実的に難しいです。汚れが酷い場合は、貸主の責で原状回復の費用を負担する可能性が高いです。
エアコンの清掃
エアコンのフィルターは、ほこりや汚れが溜まりやすい部分です。
定期的な清掃が推奨されていますが、退去時にも忘れずにチェックし、必要であれば清掃を行いましょう。
特に、ふきだし口などはカビが発生しやすい場所です。
目に見える部分がカビだらけだと、日頃のメンテナンス不足を疑われるため、最低限ここは徹底的に綺麗にしておきたいところです。
エアコンのカビ掃除について以下で詳しく解説していますのでご参考ください。
窓ガラス・網戸のカビ
窓ガラス・網戸自体の多少の汚れは問題ありませんが、枠などのゴムパッキンがカビだらけになるまで放置していた場合は問題です。
軽度なカビの場合は、住宅用中性洗剤等で落とすことが可能です。重度のカビの場合、塩素系カビ取り剤で落せることもあります。詳しくは以下の記事をご参照ください。
窓の断熱性能が低いなど、どうしてもカビが発生する状況であれば、仕方のない側面もあるのが現実です。合理的な理由がある場合、交渉できる可能性も残されています。
補修のポイント
賃貸物件の原状回復において、壁紙や床、ドア等の補修は、入居者が自身で行う作業としてはハードルが高い部類に入ります。
すでに述べた通り、一般の方が行うことで逆に悪目立ちしてしまい、余計に原状回復の費用が取られてしまうなんてことも……。そのため実施は自己責任においてご検討ください。
逆に言えば、うまく補修することができれば、敷金の返還額アップをすることが可能です。現在では専用のアイテムもネットで簡単に変える時代ですので、それらを活用することも考慮に入れると良いでしょう。
壁紙(クロス)の傷の補修
壁紙(クロス)の傷は、見た目に大きな影響を与えるため、注意が必要です。小さな傷や汚れであれば、補修液や専用のクリーナーを使用して目立たなくすることが可能です。
Amazonなどで「壁紙補修材」で検索すれば、気軽に購入することが可能です。
大きな破れや剥がれがある場合は、壁紙の一部を切り取り、同じ柄の壁紙で補修する方法が一般的です。しかし、失敗すると明らかに目立ってしまいますので、無理せず時には諦めも必要かもしれません。
そのような場合は、自己責任において自信がある場合に限って行いましょう。
床のキズやへこみの修復
床のキズやへこみは、修復キットを使用することで自分で修復することができます。フローリングの場合、キズ専用の補修ワックスやペンを使って目立たなくすることが可能です。
深いへこみや大きな傷には、木材用のパテを塗り、色を合わせて修正します。床材に合った修復方法を選ぶことが重要です。
ドアや建具の傷の修理
ドアや建具の傷も、見た目に大きく影響します。小さな傷には、補修用のマーカーやワックスで対応できます。
大きな傷や穴がある場合は、木工用のパテで埋め、塗装して修復する方法があります。床と同様、元の色や質感に合わせることがポイントとなります。
照明器具のチェック
まずは、全ての照明が正常に点灯するかをチェックしてみましょう。もしかすると、照明が切れて明りがつかない場合もあるかもしれません。
通常、照明のような軽微なものは、借主が交換すべきものとされています。そのため、退去時にそれが行われていない=業者の言い値で照明の交換代(割高)を請求されるケースもあるでしょう。
あらかじめ同じタイプの格安の照明に替えておくことで、結果的に費用を抑えることが可能な場合もあります。交換するだけで済むので、補修(と言えるかは別として)の中では最も簡単な部類に入ります。
まとめ
以上、原状回復の観点からの掃除&補修の基本について解説しました。
本記事を書いているのは引越しシーズンです。この時期は、ご存じの通り大変忙しいものです。こんな時期は、効率的にポイントを絞って掃除・補修をしたいものですね。
本ページでご紹介したように、原状回復に影響する部分を集中的に掃除・補修することで、効率よく作業をすることができるでしょう。
本記事が、原状回復費用を抑え、敷金をできるだけ多く回収できる手助けとなれば幸いです。